低用量ピル開発の歴史と避妊以外の利点!

 
「低用量ピル開発の歴史と避妊以外の利点!」
弘前女性クリニック     蓮尾 豊

ピルは1960年にアメリカで初めて避妊薬として登場しましたが、当時のピルはホルモン量が多い高用量ピルであったため、胃腸障害や血栓症などの副作用の問題が生じました。このことでピルは副作用の多いホルモン剤というイメージが日本で形成されてしまったのです。日本人のピルに対するイメージは、それから約半世紀変わらぬままでしたが、欧米では1960年代に既に中用量ピルを、そして1973年にはホルモン量の少ない低用量ピルを開発していました。そのため、欧米ではピルに対する抵抗感はほとんどみられません。世界で一番ピルが普及しているのはドイツですが、50%以上の女性がピルを服用しています。日本での普及率は3%前後と言われていますので、その差は歴然です。日本の低い普及率はどこから来ているのでしょうか。私は、日本ではまだまだピルは副作用の多い薬剤という誤解と、ピルは避妊のための薬剤という認識に止まっているためと思っています。低用量ピルは副作用がとても少なく、避妊以外の多くの利点があることを知らない女性が多いということになります。ピルは主に排卵を抑制すること、子宮内膜を薄くすること、子宮の入り口の粘液(頚管粘液)の状態を変化させることの3つの働きで確実な避妊効果を示します。今回はこの3つの避妊効果とピルの利点の関係について述べてみます。
1.排卵の抑制と卵巣癌の減少
 排卵という現象は卵巣の表面が破れ、卵巣に傷がつくことです。規則正しく月経があることは女性にとってとても重要なことですが、卵巣に毎月傷がついていることも意味します。初回妊娠の年齢が早く、多産だった時代の生涯の月経回数は現代女性の半分以下だったようです。少子化と卵巣癌の増加はこんなことも関係しているのです。しかし、ピルを飲んでいる女性は排卵がありませんから卵巣に傷がつかず、このことが卵巣癌を減らすことにつながっていると考えられています。10年以上ピルを服用している女性では、何と卵巣癌に罹患する確率は半分以下になるという報告もあります。
2.子宮内膜を薄くする効果と月経血量の減少、そして月経痛の軽減
 ピルは子宮内膜を薄くするため、万一受精しても子宮内膜に受精卵が着床できなくなることから避妊効果をより確実なものにしています。月経は妊娠が成立しなかったときにこの子宮内膜が剥がれて子宮外に排出され現象です。子宮内膜が薄ければ薄いほど月経の量は減少します。ピルを飲んでいると月経の量がとても少なくなるのはこの作用のためです。また子宮内膜を薄くすることから月経痛の軽減にもつながります。昨年、ピルの中の一種類が月経困難症治療薬として保険適応になりました。
3.頚管粘液の性状を変化させ精子の進入を防ぐことは子宮への細菌の進入も防ぎます
 ピルを飲んでいる女性では子宮の入り口から分泌される粘液が増加せず、性状も変化します。このことで精子の子宮内への進入を防いでいるわけですが、同時に病原性の細菌の進入も防いでいますので、子宮内膜炎や骨盤内感染症も減少させる効果につながっています。
(まとめ)
 ピルには確実な避妊効果と、今回書いた以外にも多くの利点があります。これらのことから、ピルを「生活改善薬」と表現することもあります。どうかピルを理解し、あなたの生活の質を高めて下さい。