緊急避妊ピルという言葉を知っていますか!
「緊急避妊ピルという言葉を知っていますか!」
弘前女性クリニック 蓮尾 豊
前回のコラムでは、低用量ピルの歴史や作用機序と副効用(利点)との関係などの話をしました。今回は「緊急避妊ピル」に関して説明します。ところで、同じピルという言葉が使われていますが「緊急避妊ピル」のことをどの程度知っていますか?
年配の方々はこの言葉を初めて聞く方もいるかもしれませんね。または、新聞などでたまに取り上げられるので、多少の知識を持っている方もいるでしょうね。しかし、20歳前後の若者はこの言葉をよく知っています。少なくとも最近青森県の高校を卒業した方はよく知っているでしょうね。何しろ多くの高校で行われている産婦人科医による性教育で緊急避妊ピルが取り上げられることが多いからです。
前置きが長くなりましたが、緊急避妊ピルは性交後避妊法(アフターピル)とも呼ばれ、妊娠の心配がある性行為が行われたとき、72時間以内に中用量ピル(プラノバール)を2錠、その12時間後にさらに2錠服用することにより妊娠の可能性を4分の1から5分の1程度に低下させることができる避妊法なのです。この方法は、1970年代に開発された方法で、Yuzpe(ヤツペ)法といいます。緊急避妊法がどのような作用機序で妊娠を防ぐかは正確にはわかっていません。現時点での最も有力な説は、排卵を抑制あるいは遅らせることにあると言われています。既に受精していた場合には、子宮内膜を着床しにくい状態に変化させる作用もあるのではとも言われています。この作用からみて、着床している受精卵を剥がすことにより妊娠の継続を中断させるのではないので、決して人工妊娠中絶薬ではありません。このヤツペ法は中用量ピルを12時間前後の間に4錠飲みますので、嘔気、嘔吐などの副作用がかなり高率に出現しますが、長くは続きませんので将来的に健康に悪影響を及ぼすことはありません。
世界の多くの国で緊急避妊ピルが使われていますが、中用量ピルを服用するヤツペ法を採用しているのは、先進国では日本だけなのです。世界の多くの国では、副作用のほとんど無いLNG法が採用されています。LNG法とは、レボノルゲストレルという黄体ホルモン単独の緊急避妊法なのです。副作用も少なく、1回の服用だけでいいので、この点でも有利です。それでは何故日本ではヤツペ法だけしか採用されていないのでしょうか。その理由は簡単です、より有効で、より安全なLNGという薬剤が日本では承認されていないのです。いろんな方の努力により、かなり承認に近づいているという情報は入っているのですが、本当に一日も早く国内でもLNG法による緊急避妊が利用できることを願っています。
大事なことですので、この機会に緊急避妊ピルと「性犯罪被害者に対する被害者支援」の関係も述べてみたいと思います。平成16年12月に成立し、平成17年4月に施行された「犯罪被害者等基本法」の延長線上として、平成17年12月に「性犯罪被害者に対する緊急避妊等に要する経費の負担軽減」が犯罪被害者等基本計画の閣議決定の中に盛り込まれました。要するに、レイプなどの性犯罪被害に遭った女性に対し、緊急避妊ピルや性感染症検査などの費用を公費で負担するというものです。実施は都道府県に任されていますので、実施内容はまちまちですが、万一の妊娠の時の中絶費用も公費で負担する県もあります。いずれにしても女性にとって大変不幸なレイプという被害を受け、その上妊娠・中絶というさらなるダメージを受けないために緊急避妊が法律で認められたものです。国はプラノバールという中用量ピルを緊急避妊薬とは認めていません。それなのに同じ国が「性犯罪者に対する被害者支援」ということに対してプラノバールの使用を認めるというおかしな状況を作っています。この面からも、国が一日も早くLNGを緊急避妊薬として承認してくれることを願っています。
最後に強調したいことは、緊急避妊ピルがあることで、避妊に関して安易な気持ちには絶対になって欲しくないということです。緊急避妊ピルは100%避妊効果があるわけではないのです。さらに、緊急避妊ピルを服用した女性が、数日後に再度の避妊失敗で緊急避妊ピルの再処方を希望して来院することもよく経験します。緊急避妊ピルを希望して来院するということは、少なくとも今後数ヵ月、あるいは女性によっては数年間妊娠の希望がないということを意味します。緊急避妊ピルの服用を契機に、最も確実な避妊法である低用量ピルの服用を是非開始して欲しいというのが私の切なる願いです。
弘前女性クリニック 蓮尾 豊
前回のコラムでは、低用量ピルの歴史や作用機序と副効用(利点)との関係などの話をしました。今回は「緊急避妊ピル」に関して説明します。ところで、同じピルという言葉が使われていますが「緊急避妊ピル」のことをどの程度知っていますか?
年配の方々はこの言葉を初めて聞く方もいるかもしれませんね。または、新聞などでたまに取り上げられるので、多少の知識を持っている方もいるでしょうね。しかし、20歳前後の若者はこの言葉をよく知っています。少なくとも最近青森県の高校を卒業した方はよく知っているでしょうね。何しろ多くの高校で行われている産婦人科医による性教育で緊急避妊ピルが取り上げられることが多いからです。
前置きが長くなりましたが、緊急避妊ピルは性交後避妊法(アフターピル)とも呼ばれ、妊娠の心配がある性行為が行われたとき、72時間以内に中用量ピル(プラノバール)を2錠、その12時間後にさらに2錠服用することにより妊娠の可能性を4分の1から5分の1程度に低下させることができる避妊法なのです。この方法は、1970年代に開発された方法で、Yuzpe(ヤツペ)法といいます。緊急避妊法がどのような作用機序で妊娠を防ぐかは正確にはわかっていません。現時点での最も有力な説は、排卵を抑制あるいは遅らせることにあると言われています。既に受精していた場合には、子宮内膜を着床しにくい状態に変化させる作用もあるのではとも言われています。この作用からみて、着床している受精卵を剥がすことにより妊娠の継続を中断させるのではないので、決して人工妊娠中絶薬ではありません。このヤツペ法は中用量ピルを12時間前後の間に4錠飲みますので、嘔気、嘔吐などの副作用がかなり高率に出現しますが、長くは続きませんので将来的に健康に悪影響を及ぼすことはありません。
世界の多くの国で緊急避妊ピルが使われていますが、中用量ピルを服用するヤツペ法を採用しているのは、先進国では日本だけなのです。世界の多くの国では、副作用のほとんど無いLNG法が採用されています。LNG法とは、レボノルゲストレルという黄体ホルモン単独の緊急避妊法なのです。副作用も少なく、1回の服用だけでいいので、この点でも有利です。それでは何故日本ではヤツペ法だけしか採用されていないのでしょうか。その理由は簡単です、より有効で、より安全なLNGという薬剤が日本では承認されていないのです。いろんな方の努力により、かなり承認に近づいているという情報は入っているのですが、本当に一日も早く国内でもLNG法による緊急避妊が利用できることを願っています。
大事なことですので、この機会に緊急避妊ピルと「性犯罪被害者に対する被害者支援」の関係も述べてみたいと思います。平成16年12月に成立し、平成17年4月に施行された「犯罪被害者等基本法」の延長線上として、平成17年12月に「性犯罪被害者に対する緊急避妊等に要する経費の負担軽減」が犯罪被害者等基本計画の閣議決定の中に盛り込まれました。要するに、レイプなどの性犯罪被害に遭った女性に対し、緊急避妊ピルや性感染症検査などの費用を公費で負担するというものです。実施は都道府県に任されていますので、実施内容はまちまちですが、万一の妊娠の時の中絶費用も公費で負担する県もあります。いずれにしても女性にとって大変不幸なレイプという被害を受け、その上妊娠・中絶というさらなるダメージを受けないために緊急避妊が法律で認められたものです。国はプラノバールという中用量ピルを緊急避妊薬とは認めていません。それなのに同じ国が「性犯罪者に対する被害者支援」ということに対してプラノバールの使用を認めるというおかしな状況を作っています。この面からも、国が一日も早くLNGを緊急避妊薬として承認してくれることを願っています。
最後に強調したいことは、緊急避妊ピルがあることで、避妊に関して安易な気持ちには絶対になって欲しくないということです。緊急避妊ピルは100%避妊効果があるわけではないのです。さらに、緊急避妊ピルを服用した女性が、数日後に再度の避妊失敗で緊急避妊ピルの再処方を希望して来院することもよく経験します。緊急避妊ピルを希望して来院するということは、少なくとも今後数ヵ月、あるいは女性によっては数年間妊娠の希望がないということを意味します。緊急避妊ピルの服用を契機に、最も確実な避妊法である低用量ピルの服用を是非開始して欲しいというのが私の切なる願いです。